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インタビュー2024.6.3
女相撲☆どすこい巡業中!単行本発売記念・堀内満里子先生インタビュー
堀内満里子・作「女相撲☆どすこい巡業中!」は2022年ボヘミア創刊号から連載開始。
【あらすじ】
時は大正時代半ば実在した女相撲に思いを馳せる!毎話代わる主人公たちはみんな十代半ばで行場がなく現状から脱したいと思っている女の子たち。体格がよく、力があり女相撲に行き着いた一人一人の物語。
- 堀内先生このたびは約1年半の連載お疲れ様でした。
- (堀内)いえいえ、編集お疲れ様でした。大変でしたよね本当に。
- インタビューの冒頭に簡単な作品紹介は載せておくのですがまだ女相撲を読んだことない人のためにもこんな話なんだよってことを。先生の口から少しお話し聞ければなと思います。
- (堀内)どんな話しって言っても…あれは女相撲があって、過去に遡っていく話なんです。
- 過去に遡っていく話…?
- (堀内)そうなんです、過去に遡って行く話しなんです。
- え、待って…1話から7話まで遡っている!
- (堀内)そうですよ。
- なんか変だな〜とは思っていたけど全然気づかなかったです。
- (堀内)嘘ぉ!
- 8話になれば、さすがに俵山女相撲創設の話しだぁと思うんですけど。
- (堀内)物語が進むにつれていないじゃないですか、人が。
- それ、編集部で結構噂されてました。だけど毎回主人公が代わるしキャラクターも多いので省略されているだけかと…。
- (堀内)いなくなっているっていうか最初から過去に遡っている話しなんですよ。
- 遡っている話しなんだ。
- (堀内)うん。年数とか場所とかあんまり特定してないんだけど遡ってますよ。
- 全話を通してっていうのは全然気づかなかった。
- (堀内)ええ〜そうなの。
- 8話の立ち上げの話はわかりやすく過去編だなぁと思ってました。7話も6話の炭坑の話しで出てきた馬賊の子の話しなんだーっていうのもありましたけど、全話通して綿密に少しづつ遡ってるっていうのは全然気づかなかったですね。
- (堀内)数ヶ月〜1年ずつ遡ってる。だから、1話目で女学生の人が自分は入って間もないみたいな事を言っていて。そこから二話に入ってるから遡ってるじゃん。
- なんで遡る話にしようとしたんですか?普通の漫画は仲間を増やしてく感じで現在から未来に進んでいきますよね。
- (堀内)それぞれの事情を抱えて相撲の興行に入っていく話だけど展開の仕方は足し算じゃなくて引き算だね。
- 女相撲は一話から仲間もたくさんいて興行が盛り上がっている状態で過去に進んでいく…。
- (堀内)1話の時点でここにこの娘はこういるけれど、実はこういう娘だったんだっていうのを描いていく話にしたんです。実はここから来たんだよっていう。
- この展開にした理由はなんですか?
- (堀内)どう思ったんだったろ…一話で親方の「俵山女相撲」はもうできているわけですよ。既に女相撲の形になっていて、それでかな。「女相撲の興行ってこんな感じ」って紹介するための一話目だから色々なキャラを出した。そうすると、読者はこの子たちはどこから来たのかなとか思うから…。
- 1話の形的に過去に遡ざるを得なかった…?
- (堀内)そうですね、役者も舞台も既に揃っていて、その上でこの子はどこから来たんだろうという感じです。親方が女相撲を始めようと言って、最終回が一話だとしたら一話の最終回に向かっていく話しなのです。
- じゃあ逆から読んでも面白いってことですね。
- (堀内)いや、どこから読んでも大丈夫ですよ。8話は一番古くて。そこから5年後ぐらいが9話目で、そこからさらに5年後ぐらいが第1話
- 最終話から一話は5年経ってるんですね
- (堀内)ぐらいだと思いますよ。
- 中でも何か印象に残る話はありますか。
- (堀内)自分の中で?
- そうです。
- (堀内)んー…まあ色々。
- メインと言っても差し支えないのは7話の馬賊編でしたよね。
- (堀内)長かったからね。エロあり、アクションあり、でも相撲がないんです。
- 先生が描きたかった相撲の形とかってありますか?
- (堀内)相撲の話だけど、スポーツ漫画ではないからそういう意味では特にない。漫画の中でも必殺技とかそういうの全然ないでしょ。
- あくまで人間を描きたかった?
- (堀内)うん…スポーツ漫画だとなんかもうちょっと修行とか技とか何かそんな感じでやると思うんですけどあんまりそういうシーンないからね。
- 今作は何が一番書きたかったですか?
- (堀内)女相撲のポスターを見てちょっと雰囲気がいいなって。
- どんな雰囲気を受け取ったんですか?
- (堀内)いや。なんだろう、すごく気に入ったんですよ。あのポスターが。
- かっこいいですね。にぎやかな感じでバランスもよくて。
- (堀内)あのポスターは傑作なのに、ポスター誌やポスターの歴史みたいな本には全然出てこないんですよ。
- 実際そのポスターを見てからと漫画を描く中で、何か変化はありましたか。
- (堀内)ポスターはサーカス団と描かれていたんですよね。でもサーカスなんて書かれていたのをすっかり忘れてて。米俵を持ち上げている描写とかもちゃんとあのポスターに入っていた。でも全然覚えていなくて。取り組みの部分しか頭になくて、それを25年ぶりに見たわけですよね。あのポスター、周りにいる踊り子さんとか楽しそうです。踊り子さんとか古い芸能物とか面白そうですよね。
- 先生は実際にお相撲もお好きなんですよね。
- (堀内)いや特別…若貴の頃はちょっと結構見ていましたよ。若貴ブームっていうのがあって。90年代半ばぐらいかなぁ、あの頃は全国民の8割くらいが番組で相撲中継見ていたと思いますよ。
- 大相撲を世に知らしめた若貴ブームの思い出とかってありますか?
- (堀内)若貴も良かったけど、琴ノ若が割と好きだったかな。角界一の美形だったので。
- 先生の漫画についてのエピソードは今回発売される単行本の中でも語られております。お楽しみに。
若貴ブームとは(1998年〜)
大横綱千代の富士が君臨していた大相撲界に、新時代を担う宿命を背負った兄弟力士が登場(若花田と貴花田)。期待にたがわず番付を駆け上がり、日本中を熱狂させる。瞬間最高視聴率は66.7%の空前の大相撲ブーム。
ボヘミアの「漫画家」になってからの生活について
- 連載漫画家なる前と後の生活の変化について聞かせてください。
- (堀内)ちょっと締め切りに追われてるよね。でも良かったことは原稿料をもらえたこと。
- そうなんですか。
- (堀内)ボヘミアの前に4年かけて描いた原稿が出版社のトラブルにより、ただ働きになり年収6万円くらいだったから。衣食住は親が持っているんだけど、お小遣いはくれないから。
- 逆に漫画家になって大変なこととかってありますか?
- (堀内)描くの遅い。
- ボヘミア作家堀内満里子の生活リズムを教えてもらってもいいでしょうか?
- (堀内)わりと規則正しく生活していますよ。朝6時に起きているし。
- 6時に起きて何をするんですか?
- (堀内)体操して。新聞読んで、母親の作った朝ご飯食べて。
- 漫画は何時くらいに描くんですか?
- (堀内)漫画はねー11時くらい。
- 起床から5時間経っていますけど…。
- (堀内)フフフフフフ!家にいる時は掃除したりとか…6時に起きて体操して新聞読んで…。
- 健全な雰囲気の生活ですね。
- (堀内)9時から株式相場をチェックするんで。10時くらいまで見ているんだよね。そんで掃除したりすると11時ぐらいになるんですよ。だけど週に3回フィットネスクラブに行っているから、午後からしか描かない日とかもあって。
- 週3日は午後から執筆スタートですね。漫画は一日どのくらい描かれるんですか?
- (堀内)えー…。
- 毎日描かれているんですか?
- (堀内)毎日描いてますよ!全然休まない!11時から描いたとして、午前中1時間描いた後、お昼ご飯を1時間ぐらいゆっくり食べて、また13時半くらいから。19時過ぎまで描いているから6時間ぐらい。そんでまた夜ちょっと描いたり…。21時前後から、22時ぐらいかな。大変だと。23時ぐらいまで描くかな。最近寝るのは24時ぐらいになっちゃっているな。ネット時代になってから寝るのが遅くなっちゃって、それ以前は22時半ぐらいに寝ていた気がする。
- なにをしている時間が長いですか?
- (堀内)アニメを見ている時間も長いです。でも、原稿をやりながらアニメを見てるから、そんなに凝視してないんですよ。
- アニメを聞いてる感じですか?
- (堀内)聞いてる感じかな。早送りで見てるしね。
- そうなんですか!?
- (堀内)もちろんですよ。早送りに決まってるじゃないですか。
- すごい意外ですけど。
- (堀内)そうですか?
- 早送りで見たことないです。
- (堀内)私はもうほとんど早送りですよ。
- あらすじとかの情報が欲しい感じですか?
- (堀内)動きと話が分かればいいんじゃないかなと。絵と話と。だって早送りせず毎日量を見ていたら1日4時間くらい使っちゃうじゃん。
- それは情報が面白いって感じなのですか。
- (堀内)私はそう。早送りじゃないと追いつかない。
- 最近の若い子達は友達と話を合わせるために早送りで映画見るみたいなことが話題になっていましたけど。
- (堀内)たくさん観ている人は早送りですよ。私は新しいアニメのシーズンになると全部見て半分ぐらいに減らすの。1日に5。6本頃くらい観ている。
- 普通に観たら1本30分として3時間ぐらい?作業しながらなら早送りじゃなくてもいいんじゃないですか?
- (堀内)早送りすると1時間で3本くらい見られる。アニメを見終わらないと原稿が集中できないから。アニメを観ることはノルマなのです。
- なるほど、原稿しながらででもないとノルマが達成できないという状況にあるんですね。お話だけ聞いているとすごく良い生活に聞こえます。毎日6時間漫画描いて新聞読んで投資してアニメ見てフィットネスクラブ行って…
- (堀内)でもあまりお出かけしてないんですよ。前は何かもうちょっとその展示とかね、映画とかね、観ていたけど、最近もう忙しくて行かれなくて。
次回作の展望について(戦争と女性画家)
- (堀内)展望はですね。私の先輩のお母さんの戦時中の体験がきっかけでした。戦時中って戦争を画家の人たちがいっぱい描いているんですよ。男の人たちなんかもね。だけど女流画家協会みたいなのがあって、そこでも合作をしようとかなって、その合作にその友達のお母さんが参加していて、それを美術研究の人が取材して本にしたわけだけど、インタビューの時まで生き残っている人は4人ぐらいしかいなかったからそのお母さんが取材を受けたんですよね。その話を私のお友達がしてくれて、この本の取材をお母さんが受けたんだって言って本を見せてくれて「これはちょっと面白そうだな」と思って、何かネタにしたいなと思って。
- ちなみに戦争画家ってどんな絵を描くんですか?
- (堀内)男の人は戦場の絵ですよ。女の人たちが描いたのは銃後の絵…後方で男の人たちがいなくなっちゃった後で作業するみたいな。拳銃の「銃」の銃の後で銃後って書くんだけど。
- 直接の戦場ではないってことですね。
- (堀内)戦場ではない。
- 戦時中のあらゆるモチーフを描いたということですね。
- (堀内)それぞれの生活の中で絵を描いていたりしていた人たちが女流画家協会みたいなのがあるから、そこで私たちもまとまったものを何か描きましょうと言って。みんな絵の具何かもあんまり手に入らなくなっちゃっているから、ここは陸軍に掛け合って、絵の具や何か色々支給してもらってやりましょうということになった。合作は寄せ集めみたいな、コラージュみたいな仕上がり。
- 例えば女性トラック運転手とか、台湾人女性工員とか女性郵便配達員とか、そういった戦時中の女性たちの風景を描いたってことですか?
- (堀内)うん、そうですね。そうそうそうそうそう。女性作業員みたいな、女性がそうそう、工場で働く姿とか、農作業や炭鉱とかを女の人たちでやっていたりとか、そう、そういう作業風景とか。
- そういう絵を描くのが女性戦争画家の役目だった?
- (堀内)役目っていうか、何か思いついたんじゃないですか?
- 戦争によって変わった日本の風景を描こうってことですか?
- (堀内)そうねぇ…どうして思いついたのかな。戦時中はみんな戦争画を描いていたから。合作も流行っていたみたいですよ。だから他の美大生たちの…ムサビとか、そういうところの人たちも合作しているんですよ。
- 次回の物語の簡単なあらすじを教えて下さい
- (堀内)戦時中の女の人たちが集まって、そこに美術協会みたいな、やっぱり絵のリーダーがいて、もうちょっと長老っぽい人がいて、あとはペーペーの人たちがいるわけですよね。内容は学校出たての立場から、その中で協力していく話。