岩井の本棚 「本店レポート」 第2回 |
あすなひろしの本
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昨年、突如BEAMコミックスから「青い空を、白い雲がかけてった」などの復刻がなされたり評論に取り上げられたりと、 再評価の機運が高まったあすなひろし。皆さんは彼をご存知でしょうか?少女マンガ出身、その後劇画に少年誌と帯域を変えながらも、後年になるほど鋭くとがっていく、その緻密、静かな描写。
そしてどこか哀しみを感じさせながらも、人間をポジティブに信じるピュアな精神。
そのスピリッツは多くのマンガ家に影響を与えてきました。
代表作「青い空を、白い雲がかけてった」はBEAMコミックスから復刻されていますし、古本での入手も容易。 それ以外のサンコミックスから発行されたものも手ごろな値段で短編が味わえるのでおすすめです。
しかし問題は、当時さほど注目されていないので発行部数少なく、またレーベル保存性に欠けている、 そして特別な値段がついていないがために、世に出てこないあたり。
あすなひろしでいうと少年チャンピオンからの「サムの大空」(全1巻)とか「風と海とサブ」(全2巻)はその典型です。
なにしろ「風と海と〜」は僕自身2巻をずっと探してて、5年間見つからなかったくらいですから!
(図1)
島と島をつなぐ小さな連絡船・高洋丸と、その乗組員達の日々を描いた、淡い物語。
2巻やや「青い空を〜」の後半のドタバタノリに近くなる部分ありますが、全体としてはかなり静かな話です。
話としては「青い空を〜」のほうが面白いですが、逆に「青い空を〜」が好きになれた人ならば、ぜひ読んでみてほしい作品です。
あすなひろしの緻密な描画力は既に多く語られていると思うのですが、このコマを見ていただけますでしょうか?(図1)
1Pのうちのたった一つのこのコマ、原稿用紙時の縮尺を考えても、10×7センチにしか過ぎないのです。
コマ左の二人の顔に至っては1センチもないはずです。
それなのにこの描きこみ、うなるほかありません。製版技術を追い抜いたその表現力。
一つのコマ、どの部分にも全く手抜きのない完璧主義者。スクリーントーンで逃げずに、黒と白のみで表現する1コマ美術。
新書サイズで読むにはあまりにも惜しいのですが、その描線の細さ美しさに触れた人は魅了されること間違いなしです。
「風と海とサブ」全2巻。税込840円。本店2ショーケース内にあります。
揃えるまでのハンパない苦労を考えたら絶対お買い得です。このクラスが頻繁に入荷するショップ、なんてたぶんないですよ?
※この記事は2005年2月11日に掲載したものです。
(担当岩井)