岩井の本棚 「マンガけもの道」 第31回

マッチョだよーーッ!! その2 ためら愛


(図2)
ていうかこのオッサンは港に何しにきたんだ


(図3)
女性の顔が「天使派リョウ」につながる感じですね


(図4)
小便、ではなくションベンです


(図5)
なぜ脱ぐ? なぜポージング?


(図7)
なんか怒鳴ってる顔の画像ばっかりですね


(図8)
こういうときはふつう腰につかまるんじゃ


(図10)
女なのかマッチョなのか、別にもうどうでもいい


(図12)
競技場にバイク乗入れ、マッチョ疾走


(図13)
すごい吹っ飛び方


(図14)
これがためら愛


(図16)
劇画風カット


(図1)
某氏によると中村・小池コンビは「シングル巣」もオススメだそうです

前回は「マッチョテイスト」に登場する、男根的主張のド変態サベツ主義者、室戸灯の「君がやりたいことって結局なんなわけ!?」な生き方を紹介してみました。 今回はその続きでマッチョ迷走編(図1)です。

アパート「洗濯船」の女性軍をオルグして洗脳してマッチョグループを形成した灯でしたが、メンバーのひとりが婚約。

それにより「やっぱ男の味が忘れられない!」とマッチョ思想がもろくも崩れ、ついにアパートはガラガラに・・・。

くじけそうになった灯は港でひとり叫びつづける。 そこに初老の男が「相手になってやろうか、5万でどうかね」といきなり買春を示唆(図2)。 あっさり応じる灯。

オイオイ、男よりも男らしい女を目指すマッチョガールが、売春してちゃだめだろう!

相手に「死ねッ!!」と怒鳴って、すんでのところで飛び出す灯。ヤレずにしかも罵られる初老の男、すごいミジメですね。

ガラガラのアパートを眺めてさァ次は何をしようか・・・よし、去った住人たちのもとに遊びに行こう! ときました。 マッチョがイヤだからアパートから去ったのに、それを追っかけていくのはダメだろう! それはね世間的にはきっとストーカーですよ。

さっそくたずねてみたら、その人は生活苦でカメラマン助手をやらされてた。
11も若いモデルの小娘のワガママとイヤミに耐え(図3)、もーだめだ、ついにブチ切れたと思ったら
「ざけんじゃァねえよッ!! ションベン小娘がーーッ!!」(図4)
「マッチョをなめるんじゃァないよッ」(図5)
といって脱衣し、意味不明のタンカ&ポージング。

タンカ切って服バッと脱ぐ、ってどういうんだろ。
このあとケンカするハメになったら明らかに不利だけどな・・・。そしてなだめようとするカメラマンを

「うっせえーッ ロリータコンプレックス野郎ーッ」(図6)
といってブン殴る。

メチャクチャだ、現場ブレイカーだ! 自セクションに絶対配属されたくないタイプの人です。

しかしそれを影ながら見つめる灯の目はいかにも「マッチョ魂ここにあり!」って感じで満足げ。いやいや全然イイ話じゃないですから、そんな納得されても。


(図6)
長いからロリコンって略そうよ


ほかの住民のところにいっても、やっぱり仕事中にためらいなくタンカ切る(しかも必ず「マッチョ」という単語を入れて)怖いヒトになってましたが(図7)、 やはり灯はその社会性の無さをガッカリするどころか「やったッ!!」と喜ぶ始末。
やってない、やってないよ。あーあ、ひどい洗脳されちゃったですねえ。

そして灯の迷走は、灯自身の恋愛という形で顕著に。それが今回のタイトルでもある「ためら愛」編です。
住民を追って大学に行ったところ、男子学生・未明とバイクが鉢合わせに。 身体は無事だったが、未明は灯にひと目ボレ。子犬のような目で足をくじいたからバイクに乗せてってくれませんか・・・と懇願。軟弱な男なのに、なぜか気になる灯。

雨の中バイクは走る・・・・灯は「しっかりつかまって、スピード出すから」という。 私の胸に手をまわして・・・と。手をまわす未明。突如悟ったように虚空を見つめる灯(図8)。ここからが難解です。


(図9)
胸つかんだだけで「マッチョだ」なんてわかるのでしょうか

「わかった」
「え!? なにがですか!?」
「わかったでしょ 私が女だってこと いいえ マッチョだってことがッ」
「女・・・って あなたがですか・・・」
「ちがうわよッ」
「そうでしょう」
「マッチョなのよーーッ」(図9・10)

何この難解なやりとり!? 初対面の人間と話すことなのか!?


(図11)
わかるほうが狂ってます

「マッチョ!? ってなんですか!?」
「お・・・男らしい感覚の女ってことッ」
「何をおっしゃってるのかよくわかりませんけど」
「私の胸のふくらみをギュッと押えてみてよッ!!」
「押えてますけど」
「わかるでしょーッ」
「ですから・・・なんのことだか・・・!?」(図11)

要を得ない問答に、カッとなった灯は革ジャンを脱ぎ捨てる。シャツがぬれて乳首が透けてても何もうれしくナイのがいいですね。

「にぎってーッ!! 私の胸のふくらみ・・・・をーーッ」(図12)
「私は女なのよーッ」
「そしてマッチョなのよーッ」(図13)
全然わかりません! 何いいたいのかが!

この条件だけ提示され「以上からマッチョと女を定義づけせよ」という論作文が出題されたら僕「マッチョとは胸を握られたい人の総称で、性別は男女に限らない」と答えると思います。

ギャアァーンとバイクは横転、二人はフッ飛ばされる。
どしゃぶりの中ふたりは倒れ、つい、乳首を吸う未明。 さっきまで胸にぎれッていってたのに怒る灯。
「てめえーッ!! 私はマッチョなんだよーッ」
怒ったのにシャツを脱ぎ捨て胸をあらわにするのは何故? タンカを切るときに服を脱ぐマッチョ習性ふたたびです。
そして未明との問答と、肉体的なふれあいから自分は女なのか? それともマッチョなのか? と錯乱しはじめる灯。いったい自分は何なのだろうかと・・・・。

ちょっとまて! それもあやふやなまま今まで自分のマッチョ観を押し付けてたのかよ! おまえに感化された娘たくさんマッチョ化してんじゃねーか! という疑問が生じるのももっとも。 いやー物語後半になってきて根本的な問題きたなー。


(図15)
やっぱりマッチョがやや大きい



(図17)
やってる最中にこんな指文字やられたらマジ引くと思う

未明と灯はスッタモンダの挙句結ばれる(図14)。
甘いひとときが終わり、未明が眠ったその夜、今までの生き方、そして処女を失った灯は自分を振りかえり思いにふけるのだった・・・この思いにふけるシーンがまたいい!!(図15)

「女」「髪」「血」そして
「マッチョ」。え? その展開からマッチョ?

タバコの煙をフーッと吐き出しまた思いにふけり、
「愛」「友」「不安」「焦燥」(図16)
まあ「マッチョ」以外はおかしくない単語なんだけど、女髪血マッチョ、ってことはないでしょ。

そして虚空に指で「ためらい」・・・と。
そう、ためらう愛、つまり「ためら愛」です・・・(図17)。

・・・アレ? いい話みたくまとめてみたのに全然そう感じませんね、おかしいですね。ためら愛、って語感ちょっと間延びしてるからかな?

未明との一夜のあと、灯は旅立つ。だが行かないでくれとしがみつかれて、つい「うっせーッ!! ガタガタ言うんじゃァないよーッ」とタンカを切ってしまう。

そのとき灯は知った。甘美さに我を忘れて自分って何者なんだろう? と自問自答し、女を忘れられないのかと苦悶もしたんだけれど、条件反射的にタンカを切る自分は、やっぱりマッチョなのだと・・・(図18)。


(図18)
なぜうれしげなのか

今までのマッチョ思想を要約すると、男以上に男らしいのがマッチョで、でも女で確かに存在してて、セックスもやむなしだけれど、 モヤモヤしたら街のダニをブン殴って静めて、基本的にはすぐタンカを切り、タンカ切るときには服を脱ぎ、キミの汗が素敵で、女で髪で血で・・・って要約できるか!

そもそもマッチョって言葉は、日本だとボディビルダーに代表される筋肉愛好者ぽく扱われやすいけれど、海外では男根主義的だったり、男尊女卑的だったり、 反フェミニスト的な意味で、思想の部分でも取られがちな単語です。だからもともと女性が自身の性同一性を自覚しつつ、マッチョを謳うのはまずあり得ない話です。

そこを補正し、うまくストーリー上の齟齬をきたさず収拾を収めようと「ためら愛」編が描かれたのだと思うのですが、 この説明を聞いても多くの読者は「女であること」を否定する意味がわからず、マッチョでい続ける意味もわからなかったのでは。
たぶん読者の9割はわからなくて、「そう、それがマッチョだよ」と同調できた1割は、まあマッチョか、ボディビルダーか、レスビアンか、でなければ心情的右翼だと思いますね。

だからマッチョという言葉を使わずに、単に男よりも男気にあふれた女性、というだけならばうまくストーリーも乗れたと思うんですが、 小池一夫先生だとしたらまずはじめにキャラ立ちありきだったんでしょうね。失敗作だといってよいと思います。

でも・・・世に失敗作が読みきれないほど積み重なれていたとしても、こんなインパクトがあり「マッチョだよーーッ」と仕事中もつぶやいてしまいたくなる失敗作も稀有であり、 小池先生でしか生み出せない怪作であることもまた間違いないのです。これは探してでも読むべき失敗作でしょう。まさに見敵必殺!です。


(図20)
マッチョ感覚なんて単語はウィキペディアにも絶対無いと思う


(図21)
言われたらヘコむなあ


(図22)
マッチョ式はなんて単語は(以下略)

《 おまけ 》

それでは、ああヤベエ、読んでるうちにマッチョになりたくなってきましたよ・・・という皆さまのために、 マッチョとはこうだ! のパターンを以下にサンプルとしてあげていきます。これさえマスターすれば、明日からマッチョになれるのです。


(図19)
意外に腹筋割れてない


「マッチョはダンベルトレーニングを毎朝必ずする」(図19)
・・・プレイ時はトップレスですが、制帽は絶対に欠かさないこと。

「マッチョは雨が降ったら傘もささずに散歩する」(図20)
・・・開放感がありスッキリします。夕立の中小走りにならず、フツーに歩いている女性がいたら、たぶんそれはマッチョです。

「マッチョはサヨナラなんていわない」(図21)
・・・男と別れるときでも、マッチョはサヨナラといわないのだそうです。ではなんと言うのかというと「愛はキャンセルします」というのです。


(図23)
はた迷惑なマッチョ式


「マッチョ式の人の呼び出し方」(図22・23)
・・・路上でバイクをブォーブォーと空ぶかししまくり「ひゃッホー」と叫びます。迷惑なことこの上ありません。


(図24)
地方の変わった風習でしょうか


「マッチョ式の失恋者のなぐさめ方」(図24)
・・・「心のパンクを直してやるよッ!」といって服を切り裂き片パイ出させ、川に放り投げた挙句、その上バイクに乗せ「パンク!! パンクッ!! パンク!! パンクパンクーッ!!」と叫びまわります。 常人ではまったく理解不能の行動なので地方的風習かもしれません。

ちなみにマンガに出てきた食べ物第30回と併用すれば「マッチョ思想にかぶれた海原雄山」が可能になります。
タンカを切った60代の男性が服を脱ぎ捨てたり、眉の太い男性が「キミの汗が素敵だ!」といわれてたり、 良三に皿を投げつけたあとバイクにのり「パンクパンクーッ!!」と叫びまわったりしてる和服の巨漢がいたとしたら、それがマッチョ海原雄山です!







・・・いねえよそんな奴!!

ああ、気を使わせてすみません、ツッコミありがとうございます。

※ 小池一夫先生原作の本は、本店・本店2ともに大量に扱っております。お探しの方はぜひまんだらけまで!


※この記事は2007年5月11日に掲載したものです。

(担当岩井)

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