岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第35回

スピリッツに舞い降りたツンデレ天使 栗田ゆう子


(図1)
えんどコイチ初連載作

今年萌え業界を席巻した「ツンデレ」というコトバは、その言葉が流行したあとのゲームやマンガのキャラ設定に大きな変化を与えているようです。

キャラとの関係性や環境上必要になる女子キャラが、ちょっとでもツンやデレが感じさせると「なんだツンデレか」と一口でくくられてしまいがちになったのです。
せっかく綿密に考えた設定をツンデレでくくられたらたまったものではないですね。

そのため近作だと「智代アフター」(KEY)に代表される、コトバはぶっきらぼうだけれども主人公への愛情を一直線に表現することをためらわないキャラが成年ゲームに登場。
キャラの立たせ方は常に新しいものを成立させるか、逆にベタを思い切り踏むかに二極化しています。

しかしいずれかのキャラも過去に似たものがあるか、その特徴を強調したものかになってしまうので、目新しいものはどんどん少なくなってくるのは間違いないでしょう。

もともと古代から少女マンガに代表されるように、女子にはツンデレ要素をたぶんに含んでいるのです。 70年代少女マンガなんか、もう全部ツンデレですよ。
だからいまさらそんなコトバを持ち出すまでもないのですね。

ただツンデレという言葉は女子の矛盾した心理を非常にわかりやすく、万人に理解させるにはとても良い言葉だったといえるでしょう。
僕がはじめて「ツンデレ」というコトバをきいた時、思い出したのは平田弘史の「つんではくずし」でした。
・・・まあそれはウソとしても「集めれ」とか「助けれ」みたいな「れ」用法で「積んでおけ」の口語調「積んでれ」だと思ったのはマジです。


(図3)
22には見えない小娘感


(図4)
なんとなくセミナー顔


(図5)
口の感じが高井研一郎ぽいのが特徴


(図6)
借り切ってくれたまえ・・・名言


(図7)
第2話の栗田さんのかわいさはガチ


(図8)
すみません、ちょっと微妙です


(図10)
通せんぼカワイイ


(図11)
いいシーンだけれど、さっきまでゆう子船酔いしてオエオエしてました


(図13)
これ以上ない山岡の人物評


(図14)
ゆう子、ほおばりすぎ


(図15)
それはいいから何点なんだ


(図16)
ハートの髪どめイカス


(図17)
山岡接待なのに、おわんの蓋さえ開けてない


(図19)
山岡のネクタイ細いよねー


(図23)
とにかく嫉妬ぶかい


(図2)
何気に大好きな作品です

ちなみに自分が最も最初にツンデレっぽさを感じたのは小学生の頃読んだ「アノアノとんがらし」(えんどコイチ)の野々亜乃亜(図1・2)。ツンよりはデレが勝ってますけどね。
そして次にはやはりこの女性でしょうか(図3)。 やれやれ、やっとこ美味しんぼまで話がきた。

「美味しんぼ」では栗田ゆう子は大きく分けると4期に分けられます。
  • 初期栗田さん
    山岡に対してやや好意をむけ、雄山を悪キャラ扱い、「海原雄山」と呼び捨てにする
  • 中期栗田さん
    山岡に対しての好意は止まるが、同時に、雄山の大きさを理解し始める。呼び方は「海原先生」
  • 後期栗田さん
    団社長と近城カメラマンという明確な恋のライバルが登場したにもかかわらず、煮え切らない山岡に不満。雄山と山岡の関係修復に走る。心情的には雄山べったり。呼び方は「海原さん」
  • 現栗田さん
    結婚して子ども生んで雄山とも仲良くなって、すっかり仕切り小姑になった現在。「海原さん」「海原雄山氏」と呼ぶ
それにしても最近の美味しんぼ見てびっくりしましたよ。いつの間に栗田さんって、こんな顔四角くなったんだろう?(図4)女は魔物ですね。

このうちツンデレを感じさせるのは「初期栗田さん」。
しかし狼みたいになんにでも噛付く初期山岡(図5)、ハリケーンを感じさせる荒れ狂いっぷりの初期雄山(図6)とともに何でこいつらそろって初期は破滅的キャラなのか。
やはり皆さん、美味しんぼは文庫版で4巻くらいまでは全日本人必携といえるでしょう。

初期と中期の見分け方はここです(図7)。
この髪のわきっちょに束ねた箇所があるのが初期です。
山岡や雄山というまあいってみればきちがい、を世間に理解させて翻訳する役目で、実質的な主人公です。

初期の特徴の一つとしてはもうひとつ、人間味溢れてて、あと絵的にもカワイイ・・・ってのがあります。みてくださいコレ(図8)。 貞本キャラかと思いましたよ!綾波やミサトさんに混じってネルフにいてもおかしくないです!

あとはツンデレ、のツンの部分ですね。
ツンぶりが、男の心を躍らせて仕方がないツンなんです。
美少女ゲーム隆盛に先駆けること15年。 このツンぶりに着目したゲームのシナリオ屋はいなかったのか? キャラデザに花咲アキラを登用する、って話はなかったのか? まったく嘆かわしい限りです。

ではその、栗田さんのツンでごはん5杯はいける、というかぐわしいツンをご覧下さい。


(図9)
栗田さん新卒なのに言いたい放題

究極のメニューを作れ、と命じられたのにもかかわらず競馬に行ってサボろうとする山岡に対して「何ゆえグータラなのか」と詰め寄る(図9)。
そして通せんぼ(図10)。通せんぼカワイイ・・・。

で、なんだかんだで山岡がやる気出して、 アンキモアンキモいってるうちに山岡の包丁裁きにみとれ「山岡さんてスゴいんだわあ・・・」と感じて、ちょっとだけデレ(図11)。

でですね、初期美味しんぼが狂ってるのは、山岡もツンぶりが非常に激しいので、二人でツンツンやりあってる部分です。
山岡にはデレの部分がないので、ただムダに尖ってるだけなんだけどね。


(図12)
絶対に家庭で使っちゃダメですよ(経験者談)

前も登場したこの有名な「30点・・・」は美味しんぼ歴代でも屈指のメゲらせセンテンスです(図12)。 人から食い物もらっておいて、それにいきなり点数をつける。それも30点。まさに飢えた狼。

で栗田さんは栗田さんで、究極のメニューなんて無意味、と居直る山岡に対してツン反撃(図13)。
寿司をほおばる栗田さんカワイイ・・・(図14)。
でもラストではまた懲りずに子犬のような目でおにぎりを差し出す(図15)。
僕だったらまた「30点」って云われたら激ヘコむのでとてもじゃないけどムリですね!

いやーこの時期のオドオドしつつも山岡にひかれてて、でも強いデレ行使もできないから、いざ接する時はツンばっかになっちゃうビミョーな関係性の栗田さんはほんとイイですね。
山岡さんなんて好きじゃないんだから! でもかまってくんなきゃヤ! みたいな感じが初々しくて。それが出ているのがこの回。

接待なんていくもんですか、とゴネる山岡には内心(図16)。 で接待の料理、なんか美味しくないわあ、とおもっても口に出せずに、キョトキョトと山岡を盗み見て機嫌を伺う(図17)。
で夜の銀座、男女二人でいいハナシになるのかと思いきや、山岡は浮浪者を探し出す始末。ついてきたがる栗田さん。


(図18)
ですもン!! ですもン!!!

「子ども扱いしないで下さい」!!
「会ってみたいんですもン。」(図18)!!

ああ。ぼく女の子とどっかいって、語尾「ですもン」で話されたら、うれしくなっていきなし抱きついちゃうかもしれません。ワァーって。
しかしそんな栗田さんをむげに
「子どもはとうに寝る時間だぞ」(図19)
と突き放す山岡、クール!! クールですよ!!
そいでちょっとスネ顔の栗田さんの「子ども扱われ感」が、なんだかわからないがとにかく良し! ですよ!!

しかしそんなクール山岡も雄山初登場で吠えまくるシーン。
雄山をののしった挙句競馬新聞を叩きつけて、心配で追いかけてきた栗田さんを「帰れッ!」とののしる。そん時の栗田さんの日本語の使い方がイイ!


(図20)
語尾「よう」は女子標準装備にすべきです

「どこへ行くのよう!?」(図20)
ああ。ぼく女の子とどっかいって、語尾「〜のよう!?」なんて訊かれたら、うれしくなっていきなしひっぱたいちゃうかもしれません。ペシッって。


(図21)
「して頂戴!!」もマストですね


(図22)
とにかくヒス娘

栗田さんのイカしたツンぶりは、定番ですけれども、山岡が他の女にモテてるときに特に強く発揮されます。

女が抱きつくと(図21)
ちょっと話しただけで(図22)
山岡が見合いに行ったときくと(図23)
山岡が女子大生とデートしたと聞くと(図24)
いやあツンツカツンツカよくもこう尖れるものですわ。


(図24)
そもそも擬音からしてツンですもんね


(図25)
栗田さんは貧乳です

そして月日はながれ、やっとこ山岡と結婚寸前・・・となってもまだこのお盛んなトゲぶり。
山岡の友人に、山岡の好みってグラマラスな女だろ? ときかされ(図25)。

いやあなんすかこのスネぶり。ツンにも程がありますよ!

僕がこの当時の栗田さん好きなのはあと物怖じしない部分ですよね。

強面の中松警部初登場時には、人の食べ方の小文句を、しかもこんな大きな声でいうし(図26)。

同じように雄山に対しても「わめいたって仕方ないですわ」(図27)とピシャリ。 初期の超暴れ雄山によく言えた。えらい、えらいよ栗田さん!


(図26)
無神経にも程がある!


(図27)
初期栗田さんはアンチ雄山

もちろん山岡にだって容赦ありません。
「去勢された牛ね」(図28)などと山岡さんなんて玉ナシ男もいいところだワ、とキツい事を平気で云います。

でもこんなツンデレ栗田さんも、初期の10巻くらいまでで、あとは恋のライバルが登場したり、 雄山との関係性が強くなってきたりするうち、すっかり大人っぽくなってきちゃうんです。
しかも熱烈にプロポーズしてくる男達をいいように手玉にとって操る悪女に。


(図28)
しょせん玉ナシね

30巻以降なんか団社長に一発やられんじゃないか、とハラハラして見てた覚えがあります。

ああこんなのツンデレ栗田さんじゃない! これは雄山に洗脳されたのか? それとも転向? ナイフの先が鈍ったのか?
ああ、歳取る、丸くなるっていやですね。

・・・というわけで長かった「美味しんぼ」編もとりあえず今回で一区切りにしようかと思います。

当時のスピリッツという雑誌は、柴門ふみに浦沢直樹、ツルモク独身寮にホイチョイプロ、 ギャグでは相原コージ→吉田戦車と、バブリーな時代を象徴する活気ある連載陣でした。

ヤンマガが永ちゃん&尾崎だとしたら、スピリッツはサザンとユーミンの匂いのする雑誌でした。
そんな都会的でかつ実験的なスピリッツの中では、美味しんぼはかなり変わったマンガに感じたのを覚えています。
しかしそのヘンさに気が付くには、僕にはまだまだ時間が必要でした。

毀誉褒貶は色々ありますが、日本人の食への興味と多用な着眼点という意味では、ものすごく大きな影響を一般人に与えたことは間違いないマンガだと思います。
こんなに大きな影響を与えたマンガ、って、実はないんじゃないかな? ってくらいに。
僕がこんなコラムを書くに至ったひとつに美味しんぼを語りたいという欲求があったことは間違いないです。

ぼくはとりあえず初期の美味しんぼが完成形だと思っているので文庫にして8巻くらいまでばかりを集中して取り上げましたが、 全体としてもツッコミどころあり知識ありで楽しめることは間違いないです。
中野店では本店2にて取り扱いをしております。まだ読んでいない方も、過去に読んだきりの方も、是非!

それでは最後に恒例のひとコマでしめくくらせてもらいます。(図29)

(図29)
それでは皆さんご一緒に

やっぱ海原雄山はステキだわあ・・・。

※この記事は2005年12月16日に掲載したものです。

(担当岩井)

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