(図1)
吉岡平の「無責任艦長タイラー」の主人公、ジャスティ・ウエキ・タイラーです。
富士見ファンタジア文庫の創刊まもない1988年に第一作が発表され、その後アニメやOVAにもなり、シリーズや出版社を変えながら長い間続きました。
遠い未来を舞台にした戦争もの、ということで、発表された20年前でもライトノベルでは異色でしたが、
その設定やキャラ造形には、まちがいなくこの人が強く投影されています。
(図2)
いまでこそ「銀英伝」は、日本におけるベーシック小説のような扱いですが、その完結は1987年。
タイラーの第一作のわずか1年前です。
「銀英伝」が影響を与えたフィクション作品は数知れずありますが、まっさきに影響を受けた、というより
意図的に似せた作品が「タイラー」であったのは間違いないと思います。
ただし、タイラーはヤンに比べると、かなり大胆な「アレンジ」が加えられています。
ただのパロディではなく、
言い方は悪いのですが『邪悪なパロディ(by「窓辺には夜の歌」)』とも言うべき変形が加えられています。
(図3)
タイラーはそんな自己矛盾や苦悩とは無縁です。(図3)
ヤンのキャラ造形は、”一見まったく冴えない風貌の人物が実は途方もない才能の持ち主である”という、よくあるといえば
よくある造形に、歴史上の登場人物的なアレンジが加えられています。
一方のタイラーも”冴えない風貌の人物が実は途方もない才能の持ち主”という点では全く同じですが、
ヤンにとっては嫌でしょうがないものだった戦争の才能は、タイラーにとっては文字通り欠かすことのできないものでした。
ヤンは、軍で出世することになんの興味もありませんでしたが、タイラーは逆に出世するのがうれしくて仕方のないキャラです。
(植木等の無責任男がモデルなので、当然といえば当然ですが)
ヤンは平和に長生きしたいと思いながら、早くに亡くなりますが、タイラーは作中で130歳まで生きたことが明記されています。
このあたりは、吉岡平先生がかなり意図的にパロディにした、悪い言い方をすれば「いいとこ取り」をしたともいえます。
キャラ造形、という話をすると、ヤン・ウェンリーのような”冴えない風貌だが途方もない才能の持ち主”というキャラは多く
存在しますが、タイラーの登場により、そのキャラ造形は細分化されていきます。
つまり
”冴えない風貌の人物が実は途方もない才能の持ち主→その才能は本人にとって疎ましいものである”
”冴えない風貌の人物が実は途方もない才能の持ち主→その才能を本人は前向きに使っている”
という二種類の流れができていくことになります。前者はシリアスなストーリーになりがちで、
後者は明るいストーリーやコメディになることが比較的多いです。
乱暴に例えると、前者は緋村剣心で後者は鵺野鳴介といったところでしょうか。
(図4)
というところで、続きは次回また書きます。
次回のネタは「小さな国の救世主」です。
(担当 有冨)