前回にも書いたとおり、「ロードス島戦記」と「ソードワールドRPGリプレイ」のヒットにより、過渡期のライトノベルとTRPGには浅からぬ関係がありました。
やがてそれは、1990年代初頭に、主要なライトノベルの出版社すべてにTRPG専門の雑誌が刊行されるという事態にまでなりました。
(図1)
角川書店からは「コンプRPG」 (図1:左側) 、メディアワークスからは「電撃アドベンチャーズ」 (図1:右側) と、それぞれTRPGの専門誌が発売され、富士見書房からもドラゴンマガジンの別冊として「RPGドラゴン」が創刊されました。
さらに、角川スニーカー文庫には「スニーカーG文庫」、電撃文庫からは「電撃ゲーム文庫」と、それぞれTRPGのルールブックやリプレイを専門に取り扱うレーベルまでも設立されていました。
しかし、前回も書いたとおり、もともと大流行することなど基本的にありえないTRPG。またMTG「マジック・ザ・ギャザリング」の大ヒットもあり−余談ですがアナログゲームの老舗雑誌『RPGマガジン』が『ゲームぎゃざ』に雑誌名を変えたのは、歴史上に残るほどの節操のなさだと勝手に思ってます−TRPGのブームはあっという間に消滅。
前述の雑誌やレーベルはほぼ時を同じくしてフェイドアウトしていき、唯一富士見書房から出ている富士見ドラゴンブックのみが、ほそぼそとTRPG関連の本を出しているという状況でした。
そんな、TRPGファンが言うところの『TRPG冬の時代』に、突如富士見ファンタジア文庫に書き下ろしであるリプレイが刊行されました。
(図2)
”秋田みやび”という、コアなファンですらまったく名前を聞いたことのない作家 (それもそのはずで、秋田先生はグループSNEにクリエイターではなく経理として入社したという異色の経歴の持ち主です) によって書かれたこのリプレイは、それまでのリプレイ集とは違い『使用されているルールが分からなくても十分面白い』という、それまでのリプレイの常識を根底から覆すような特徴を持っていました。
大げさに表現するならば、これ一作 (図2) で『冬の時代』を終わらせるほどヒットしたこのシリーズは、全10巻という大長編になり、TRPGの知識がないライトノベルファンの間にも広く人気を得ました。
ここまで書いてようやく前回の「奇妙な進化」の前置きまで説明できたのですが、続きはまた次回で。
次回もTRPG、というよりリプレイの話です。
(担当 有冨)